未来の見える筒 中村太一
「くれぐれも慎重に選んでください。しかし、考えすぎないように。心を済ませて直感に従うのです。心の声に耳を傾けてください。決まったら抜き取って向こうをのぞいてください。あなたの望む未来を見ることができます。……あ、お客様、そんなに簡単に決めてしまっては……」
慌てる男は無視し、私は片目をつぶって筒の向こうをのぞいた。何もない。白い壁だけが見える。
「何もありません」
「もう一度選びなおしましょう」
「白い壁しかありません」
男から返事がない。
筒を外してみると、さっきの男が消えていた。筒の山もなくなっている。持っていたはずの筒もない。よく見ると私もいなかった。まさに私が望んだ世界だ。
中村太一
作家志望の社会人。円城塔や綿矢りさ、羽田圭介が好き。ツイッター→@toooooichi101
北野さんのほぼ100文字小説にインスパイヤされ短い話を書きました。